「医師、もう限界」と感じる本当の理由。向いてないんじゃなくて、職場が合わないだけ
こんばんは。ゆうきです。
「もう限界。私、医師に向いてないのかもしれない」
この言葉、頭をよぎったことがあるんじゃないでしょうか。
36時間連続勤務のあと、当直明けの駐車場で車のドアに手をかけたまま動けないとき。患者さんの前ではちゃんと笑顔で診察しているのに、家に帰ると一言も話せなくなっているとき。
私も、内科3年目の春にこの言葉が頭から離れなくなりました。
でも、在宅医療クリニックに移って1年が経った今、はっきりと言えます。
あなたは向いてないんじゃない。職場が合っていないだけなんです。
今日はその理由を、順番に書いていきます。
「向いてない」と感じるタイミングは、だいたい決まっている
自分が「医師に向いてない」と思うとき、だいたい次の3つのどれかが起きています。
- 身体が限界に近づいている(不眠、食欲減退、当直明けの動悸、生理周期の乱れ)
- 罪悪感に押し潰されている(学費を出してくれた両親、抜けられない医局、3年目で辞める後ろめたさ)
- 患者さん一人ひとりに向き合う時間がない(流れ作業の外来、走り回る救急、カンファ準備に追われる夜)
ここで大事なのは、この3つは全部「職場の構造」が作り出しているものということです。
医師としての向き不向きは、本来もっと深いところにあります。「人と接するのが嫌い」「誰かの身体に責任を持つことが怖い」なら、それは向き不向きの話かもしれません。
でも、この記事を読んでいるあなたは、たぶんそうじゃない。
患者さんに「先生、ありがとう」と言われると胸が温かくなる。診断がぴたっと合った瞬間、医師になってよかったと思える。「医師になりたかった」気持ちは、今もゼロではないはずなんです。
だとしたら、「向いてない」と感じている原因は、あなたの素質じゃなくて、今いる職場の構造にあります。
職場の構造①「36時間連続勤務」は人間を壊すために設計されている
これは言い切っていいと思っています。
36時間連続で起き続ける生活は、人間の身体にとって不自然です。概日リズムが壊れ、自律神経が崩れ、判断力が落ちます。
私は内科3年目の春、月に5〜6回の当直をしていました。そのころの自分の状態を思い出すと、こんな感じでした。
- 当直明けの朝、家に帰ってもすぐには眠れない
- 眠れても2時間で目が覚める
- 休みの日なのに、医学書を開く気力もない
- LINEを返すのが億劫で、同期と疎遠になっていく
- 鏡を見ると、自分じゃない誰かの顔がある
これ、全部「根性が足りない」とか「医師としての覚悟が足りない」じゃないんです。当直という勤務形態が、人間の身体を壊していただけ。
在宅医療クリニックに移って当直がゼロになったら、1ヶ月で肌の調子が戻りました。両親に「顔つきが柔らかくなった」と言われました。中身は何も変えていないのに。
職場の構造②「医局・上下関係」は、職場の文化で決まる
上司の圧、同期のマウント、「3年目はそういう時期」という呪文。
これを「医師の世界だから仕方ない」と思っている人、多いです。私もそうでした。
でも、違います。これはその医局、その病院の文化です。
証拠はシンプルで、私が今いる在宅医療クリニックには、威圧的な上司も、マウントを取る同期も、「弱音を吐く奴は医師失格」みたいな空気もありません。院長先生は60代の穏やかな先生で、「分からないことは何回でも聞いていいよ」と最初の日に言ってくれました。
同じ「医師の仕事」をしているのに、職場が変わるだけで、人間関係の質は全然違う。
「医師の世界は厳しい」じゃなくて、「厳しい職場しか知らなかった」だけなんです。
外に出ると、穏やかな職場はちゃんと存在します。
職場の構造③「やりがい」は、時間と余裕がないと感じられない
やりがいって、余裕がある人にしか感じられないんです。
市中病院の外来では、1コマで30人前後の患者さんを診ます。1人あたり3〜5分。カルテを打ちながら、次の患者さんを呼びながら、検査結果を確認しながら。
その状態で「患者さんの背景まで聞きたい」と思っても、物理的に無理です。話を聞く時間がないから。
在宅医療クリニックに移って気づきました。患者さんの自宅で30分話せると、医師の仕事ってこんなに深いんだ、と。生活背景、家族構成、本人の希望、これまでの人生。そこまで踏まえて処方を考えられる時間が、毎日あります。
「やりがいを感じられない=医師に向いてない」じゃないんです。「やりがいを感じる余裕がない職場にいる=構造が合っていない」です。
「3年目で辞めるなんて、もったいない」という呪い
ここまで読んで、こう思った人がいるかもしれません。
「でも、3年目で辞めるなんて、もったいないんじゃないか」
これは、医師の世界に根強くある呪いのような言葉です。
- 「みんな当直やってる」
- 「3年目はそういう時期だよ」
- 「医局を抜けるのは軟弱」
- 「3,500万円かけた両親に申し訳ない」
- 「どこに行っても同じだよ」
全部、今いる場所から動かないための言葉です。
職場を変えることは、もったいないことじゃありません。自分の身体と判断力を守るために、違う場所を選ぶという、当たり前の判断です。
36時間連続勤務で削れた認知機能は、いくら気合いを入れても戻りません。当直明けの診察で意識が飛びそうになる瞬間は、根性では消えません。それを守れるのは、職場を変える選択だけです。
医師としての責任を本気で考えるなら、判断力の落ちた状態で患者さんを診続けるほうが、よほど怖いんです。
じゃあ、どこに向かえばいいのか
「職場が合っていないだけ」と分かっても、次の問題はここです。
「じゃあ、どこに行けばいいのか」が分からない。
私もここで数週間止まりました。
医師の働き方って、市中病院の常勤以外にもたくさんあります。
- 在宅医療クリニック(午前外来、午後訪問診療、当直ゼロ)
- クリニックの外来常勤(日勤のみ、土日休み)
- 健診センター(カレンダー通りの休み、急変対応なし)
- 産業医(企業の健康管理、オフィスワーク)
- 行政(保健所、医系技官)
- 製薬会社のメディカルアフェアーズ
- 医療系スタートアップの監修医師
でも、求人票を読むだけでは、どこが自分に合うか分かりません。「在宅医療って訪問の負担が重いのでは」「健診って物足りないのでは」。こういう疑問に答えてくれる人が必要です。
一人で決めようとすると、たいてい「今の病院より少しだけマシな場所」を選んでしまいます。
そうじゃなくて、自分の3年分の臨床経験と希望を聞いてくれて、合う職場を提案してくれる第三者に頼るほうが早いです。
次の記事で、その「第三者」の使い方を書きます。「医師の転職エージェントって、押し売りされるのでは」という不安も分かるので、私が当直明けの仮眠室で実際に登録した日の体験を、正直に書きました。
追伸。
もしあなたが今、「私、医師に向いてないかも」と感じているなら、どうかそれを自分のせいにしないでください。
向き不向きは、もっと深いところの話です。
36時間連続勤務、医局の上下関係、患者さん一人に時間を割けない外来。これらは全部、職場の構造が作り出しているものです。職場を変えれば、あなたのままで、医師を続けられます。
私がそうだったように。
あなたの当直明けの朝が、少しでも穏やかになりますように。
ゆうき
Smart Choice Log
※ 本記事は元・市中病院常勤医として在宅医療クリニックに転職した私(ゆうき)個人の体験記です。医師の働き方や転職の判断は、個々の状況・専門領域・医局やプログラムとの関係によって最適解が異なります。診療・キャリアに関わる重要な判断は、信頼できる先輩医師や転職エージェントの担当者など、利害関係を踏まえた複数の第三者に相談されることをおすすめします。