経営者になって2年目で、私は知りました。
「資金繰りで眠れない夜」って、特定の業績悪化のときだけ来るんじゃないんです。
むしろ、売上が順調に伸びている月、新規取引が決まった月、業界のニュースで自社の名前が出た月、そういう「外から見ると絶好調」の月にも、しっかり来ます。
経営者にしか分からない「眠れない夜の正体」が、5パターンあると私は思っています。
今日はその5つを、3代目町工場の45歳経営者として、自分が実際に通った瞬間と一緒に書きます。
もしあなたが「自分が弱いから眠れないのかな」と思っているなら、まず読んでもらえたら嬉しいです。
弱いから眠れないんじゃないんです。経営者なら、誰でも通る場面なんです。
瞬間① 大口の新規取引が決まった月の支払い前夜
最初の眠れない夜は、たいてい「新規取引が決まった月」に来ます。
私の場合は、2024年の6月でした。
車載部品メーカーの一次下請けから、月額売上が一気に1.5倍になる新規発注。父の代から付き合いのある商社の紹介で、私が3代目を引き継いで2ヶ月目の大きな手応え。
社員に「いい仕事が決まったから、頑張ろう」と話して、皆で乾杯までしました。
ただ、その取引先の入金サイトは 検収後90日 でした。
材料費・外注費・残業代・社会保険料は、いつも通り月末締めの翌月末。
売上が1.5倍になる月は、支払いも1.5倍になります。先に出ていくお金が、後から入ってくるお金を90日間追い越す。
7月末の支払い前夜、私は通帳を5回見直しました。
8月末の支払い前夜は、7回。9月末は、8回。
外から見れば「大口新規取引獲得・絶好調」の3ヶ月。
内側では、月末の銀行残高だけが、静かに減り続けていました。
新規取引で売上が伸びるほど、運転資金は逆に圧迫される。
これを 「成長痛」 と呼ぶ経営者もいますが、痛みの正体は単純で、「入金より支払いが先に来る」というタイミングのズレです。
瞬間② 賞与支給日が近づく初冬
二つ目は、賞与支給日が近づく11月〜12月。
私が引き継いだ町工場は社員13名。冬の賞与は、業績連動の部分を含めて、合計で月給1ヶ月分プラスαが目安です。
社員13人分のボーナスを、12月の決まった日に、一斉に支給する。
しかも12月は、社会保険料の引き落とし・年末年始休業中の運転資金確保・外注先への年内最終支払いが重なります。
「ボーナスは満額出せるか」「社会保険料の引き落としで残高がマイナスにならないか」「年明けの始業日まで運転資金を持たせられるか」が、同時に頭を回ります。
私は2024年の12月の最初の週、寝る前に通帳を10回見直しました。
社員のボーナス袋を渡す日、私は朝から胃が痛かったです。
渡しながら「いつもありがとう」と笑顔で言いつつ、頭の中では「これで今月の出費が確定した、あと3週間どう繋ぐか」を計算していました。
社員には、絶対に言えません。
「今月のボーナスを満額出すために、私は社会保険料の引き落とし日を毎晩シミュレーションしていた」とは。
経営者だけが、ボーナスを渡しながら静かに眠れなくなる季節があります。
瞬間③ 銀行融資の審査結果を待つ3週間
三つ目は、銀行融資の申請を出してから、回答が来るまでの3週間。
私は2024年の10月、地元の地方銀行に運転資金の融資申請を出しました。
事業計画書、決算書3期分、納税証明、すべて揃えて。
3週間後の回答日まで、私は毎日「もし通らなかったら何月まで持つか」を計算し直していました。
担当者から「面談の追加が必要です」と連絡が来た日は、5時間しか眠れませんでした。
追加面談で何を聞かれるかわからない不安と、「審査が長引いている=厳しい兆候」という業界の通説が、頭の中でずっと回っていた。
3週間後の回答は「今期の決算が確定するまで判断できません」。
事実上のノーでした。
その帰り道、私は次のメインバンクと信用金庫に同じ書類を出すために、車のハンドルを握って深呼吸を繰り返しました。
3社連続で同じ3週間を待ち、3社連続で実質「ノー」が出るまでに、私は約2ヶ月かかりました。
その2ヶ月、私は毎晩「次にどこに頭を下げに行けばいいか」を考えながら寝ていました。
銀行融資の審査待ちは、経営者にしか分からない種類のプレッシャーです。
結果が出るまで動けない。動けない期間中も、支払い日は容赦なく月末に来る。
瞬間④ 取引先から「ちょっと支払い、来月にずらせない?」の電話
四つ目は、ある日突然、取引先から入る一本の電話です。
「すみません、こちらの事情で、今月末予定の支払いを来月末にずらしてもらえませんか」
これは、私の取引先の話ではなく、3代目を引き継いだあと、別の業界の同年代の経営者から聞いた話です。
彼は内装工事の3代目で、得意先のホテルチェーンが新型コロナの影響で支払いを1ヶ月遅らせてほしいと連絡してきた、と話していました。
ホテル側の事情を考えれば、断りづらい。
ただ、その月の彼の支払いサイクルは、その入金を前提に組まれていました。
1ヶ月延期は、彼の事業の運転資金1.2ヶ月分が宙に浮くことを意味した。
「断ったらこの取引先を失うかもしれない、受け入れたら今月どう回すかわからない」
彼はその夜、家に帰ってから何時間も眠れなかった、と話していました。
経営者の眠れない夜は、自社の業績が悪いから来るとは限りません。
取引先の事情・業界全体の動き・社会情勢の急変で、ある日突然、自社の入金スケジュールが崩れることがある。
そして、その瞬間に「自分の手元の現金で何ヶ月持つか」という問いを、誰にも相談できないまま一人で計算する夜が来ます。
瞬間⑤ 決算月の社会保険料・税金支払いが重なる週
五つ目は、決算月。
私の会社は3月決算なので、3月は社会保険料・消費税・法人税の予定納税が重なる週があります。
ただでさえ年度末で取引先の検収締切が立て込み、外注費の支払いも増える時期。
そこに税金関係の支払いが乗ると、3月の月末に出ていくお金は通常月の1.5〜1.8倍になります。
「決算が黒字で着地しそうなのに、なぜか3月末の銀行残高が一番苦しい」
これは経営者を1年やった人なら、ほぼ全員が一度は感じる矛盾です。
利益と現金は、別物なんです。
売上1億円・利益1,000万円の黒字決算でも、3月末の銀行残高は限界を試される。
私は引き継いで初めての決算月、2025年3月の月末の3日間で、過去最少の睡眠時間を記録しました。
1日3〜4時間×3日連続。
妻にも「決算月だから少し忙しい」とだけ言って、本当のしんどさは隠していました。
決算月の眠れない夜は、業績が良ければ良いほど来ます。
利益が出ているということは、税金が増えるということ。税金が増えるということは、3月末に出ていく現金が増えるということ。
これを「黒字倒産の入口」と呼ぶ経営者もいます。
5つの瞬間に共通する「正体」
ここまで書いた5つの瞬間は、業種も状況もバラバラです。
ただ、共通している正体が一つだけあります。
「売上・利益・業績」と「手元の現金」のズレ です。
会計上の利益が出ていても、手元の現金は別軸で動きます。
売上が伸びているのに、手元の現金は減ることがあります。
銀行融資の審査に通る信用力があっても、結果が出るまでの3週間は手元の現金で繋ぐしかありません。
このズレを、会計用語では 「キャッシュフロー」 と呼びます。
ただ、教科書的なキャッシュフロー計算書を眺めても、月末の支払い前夜に眠れなくなる経営者の感覚は、たぶん救えません。
救えるのは、「ズレを吸収する具体的な道具」だけです。
ズレを吸収する道具は、3種類ある
経営者が「売上と入金のズレ」を吸収するために使える道具は、大きく3種類あります。
| No. | 道具 | 用途 | スピード | コスト |
|---|---|---|---|---|
| 1 | 銀行融資・公的金融 | 長期の運転資金・設備投資資金 | 数週間〜2ヶ月 | 低 |
| 2 | ビジネスローン・カードローン | 短期の運転資金繰り | 数日〜1週間 | 中 |
| 3 | 請求書立替払い(ファクタリング) | 売掛金の入金前倒し | 2〜5営業日 | 高 |
3つの道具は、置き換える関係ではなく、組み合わせる関係です。
長期の設備投資は銀行融資。
慢性的な運転資金不足はビジネスローンや増資を含めた検討。
入金サイトのズレで一時的に詰まる月だけ、請求書立替払い。
私は引き継いで1年目、この使い分けを知りませんでした。
「経営者は銀行融資で資金を回すもの」という思い込みで、銀行3社に断られたあと、次の選択肢が見えなくなっていました。
新年会で同業の3代目社長に「うちも立替払い使ってる」と聞かされて、初めて「銀行融資以外にも、ズレを吸収する道具があるんだ」と知った夜のことを、今でも覚えています。
「自分が弱いから眠れない」のではない
今日お伝えしたかったのは、これだけです。
経営者の眠れない夜は、5パターン以上あって、どれも「業績が悪いから」ではなく「ズレが起きているから」起きています。
ズレを吸収する道具を知っているかどうかで、眠れない夜の数は変わります。
私が2024年の冬に欲しかったのは、「経営者は誰でも眠れない夜を通る、それは弱さではない」という、たった一行の言葉でした。
それを伝えたくて、今日の記事を書きました。
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